「はやしとかずま」展示アーカイブ
「はやしとかずま」展開催
期間:2019/7/8~12
場所:東京藝術大学絵画棟油画ギャラリー
アーティスト:林裕人、山本和真
企画・キュレーション:林
作品数・形式:VRインスタレーション1、ペインティング3
出展作品リンク:So, who am I ?
○Index
・展示概要
・“R”とは何か
▼展示概要
インターネットやテクノロジーの進化によって変容していく、現代のリアリティや人格のあり方についてアプローチした、二人のアーティストによる展示。
3ヶ月間にそれぞれが考えたことを、林はVR、かずまはペインティングをメインに、それぞれのメディアでアウトプットした、試作発表的な色合いの強い展示でもあった。
・二人の組み合わせについて
ふとした縁で成立した組み合わせの二人だったが、偶然にも二人は生まれ育ちが同じ街で、同じ景色を見ながら育っていた。
これは実際、とても大きな意味があると思う。
東京の多摩地区、坂を挟んで駅から一歩離れた住宅街。新しい団地、新しい小学校、新しい公園。外から来た家族、外から来た教師。1000年以上前の遺跡はあっても、生きて受け継がれた営みの薄い町だった。小学校の同級生はだいたいA,B,Cと番号が振られた団地のどこかに住んでいて、同じような暮らしをしている。誰かと誰かが入れ替わっても、もしかしたら気づかないんじゃないか、それぐらいに均一な人間たちの、代わり映えのしない日々で、子供達が興味を見出したのはゲームやインターネットだった。
そんなわけで、僕らは間違いなくインターネットネイティブだとか、ポストインターネット世代とか言われる人間で、そこに対する興味と様々な問題意識、つまりこの現代の一つの普遍的な問題系に対して正面から向き合って作品を作るのは必然だった。
・展示が開始して
今回は一つのキュレーションの成功があって、出来上がった展示ではお互いの作品がそれぞれの見方を自然に補完・アップデートするようなものになったと思う。
また、今回は現代における一つの普遍的な問題系を正面から扱っていて、VRというデバイスの目新しさもあって、様々な方に来ていただけたし、フィードバックも大きかった。いろいろな人にとってある程度の実感のあるトピックだったのだと思う。
具体的に、特にVR作品はこの展示において重要な要素で、だから発展途上の作品を出したことは歯がゆかったけれど、それでも様々な方向から考察が深まり、AR,MR,VRとは何か、ということについて、一つの見解を得られた。以下にそれを簡単にまとめ、はやしとかずま展のアーカイブとする。
▼“R”とは何か
今回の展示で得られた話題として、VRを用いた作品を制作してアートシーンから評価されている、ジョンラフマンというアーティストの名前が幾度か上がった。
彼のインタビュー記事などを読んで見ると、AR,MR,VRとは何か、ということに対する重要な見解が得られた。
近代以前、カント以前、複製技術以前の世界には、何事にも本質が存在していて、人々はその物自体を捉えることができていた。例えば、魔術や悪魔や神が、本当に世界には存在していたのだ。
しかし人々は科学的な思考を進めていき、認識論の世界でカントは、人間は世界から得られた一側面をリアリティとして認識し、そこから世界のあり方を想像しているに過ぎないという指摘をした。真実などはない、解釈のみが存在する、というのはニーチェの言葉だが、世界から本質は隠されていき、リアリティの知覚のみが残った。人々の世界認識、つまり世界のあり方はそこで変わっていったのだ。
そして映像技術によって他者の視線を受容できる様になり、人々の世界認識はまた徐々にアップデートされていく。それを明確に変容させる可能性が、AR,MR,VRにはある。
これらの3“R"技術においては、現実に存在していないものを、存在しているものと並列に、目の前に映し出す。存在しているもの、“モノ自体”、つまり本質からその一側面をリアリティの知覚として認識するこれまでの現実に対して、モノ自体が存在しないところに、リアリティの知覚を直接映し出す。つまりRとはリアリティの知覚そのものなのだ。
だから、VR、バーチャルリアリティを「仮想現実」という言葉で捉えるのは、日本語の印象としてはVRの性質を捕らえ損なっている可能性がある。そこにあるのは仮想ではない人の世界認識そのものであり、過去に仮想として想定され作られたものは限りなく現実に近づいている。VRと現実がシームレスになる時、物の存在の仕方や本質のあり方というものが、また一つアップデートされていくのだろうと思う。僕は批評家ではないけれど、世界のあり方や、自分の存在がどういうものなのか、ということについてはとても興味があるし(誰だってそうかもしれないかな)アーティストとして追求していきたいと思う。
今後の展開として、そういうところで考えていこうと思う。
展示に来てくれた方々、気にかけてくれた方々、ここまで読んでくれた方々、皆さんのおかげで僕はいろいろなことを考えることができているし、作品が先に進んでいくことができています。今後の展開もぜひフォローしてほしいです。それぞれの立場で物事を深く考えて面白いことにしていきましょう。
0コメント